━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━    ■□■ ASD:自閉症スペクトラム障害 その臨床現場から ■□■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *「小さい時から自分は周りの友達とは違うなと感じてきた。大人になってからもずっと   なぜ?どうして?の繰り返しだった。どうしたらいいのかわからなかった。   人づき合いが苦手なのは生まれつきの障害なんだとわかり、ようやく本当の自分がわ   かった。」  「家族が、どうしてこういう態度や言動をするのか解らなかった。   大人の発達障害と知り、対応方法も教わり、以前のようにイライラすることも減って   きた。わかって安心した。」   これは、発達障害の本人と家族からの言葉です。皆さん同じことをおっしゃいます。 * ASD=自閉症スペクトラム障害とは、・自閉症・広汎性発達障害・アスペルガー症候   群などと呼ばれている発達の障害を総称した新しい概念です。   生まれつきの脳の機能障害で、知能や言葉に遅れはないが、社会性とコミュニケーシ   ョンの障害があり、本人には悪気はなくても周囲との摩擦が起こりやすいのです。   その為にいじめや虐待につながることがあり、それがトラウマとなってフラッシュバ   ックが発現することもあります。 * 過日顧問先社員から、パチンコで借金した息子Bさんについて相談を受けました。   早速日曜外来で、Bさん家族とのカウンセリングを行いました。   20代後半のBさんは聡明で、健気に家事全般をこなし、一生懸命仕事をして、更に   幼い子供の面倒を見ているイクメンでした。   「妻は家事が苦手で片付けが全くダメなんです。洗濯はできるけど料理はできなくて   2時間もかかってしまうから、家のことは自分がしています。幼い子供の面倒を見る   のも苦手で、ちょっとした事でも大喧嘩になってしまい話し合いにならないのです。   そんな家庭状況なので、パチンコに逃げていたのかも知れません。」とのことでした。   私は逃避行動をしなければならなかった彼の辛さに寄り添い、親御さんが心配してい   たギャンブル依存症では無いと判断しました。 * 次にBさんの奥さんと面談して私は愕然としました。と同時に納得したのです。   30代後半の彼女は会話が通じないのです。   終始落ち着きがなく、目を合わせることが全く出来ませんでした。   言葉そのものは理解できるのですが、言葉の裏側の思いを伝えることは不可能で、   何を話してもキョトンとした表情で会話が成立しませんでした。   「夫からいつも空気を読めよ、と言われる。話をしても相手がわかっているかどうか   は解らない。嫌いな人はいないけど。」と間断なくしゃべり続けました。   更に「とにかく1日中むかつく。イライラが止まらない。怒りがずっと続く。」との事。   面談中も15分位経つと集中力が散漫になり、“わかりませんの顔”になりました。 * Bさんに奥さんの生育歴を伺うと、「幼い頃母親から暴力を受けていたようです。妻が   幼い子供に手を上げて打ったり叩いたりするので注意すると喧嘩になり、更に子供に   当たるの繰り返しです。」とのことでした。   私は、Bさんが感じる違和感にはASDの疑いがあると思うと診立てを申送りして、   精神科への紹介状を作成し、受診指示と治療の継続を指導しました。   主治医の診断は、ADHDとアスペルガーでした。 * 私が出会ったASDの方々の特徴は、    ・対人関係を築くことが苦手         ・社会性が未熟     ・会話のキャッチボールができない    ・人と会話していても視線を合わせず、表情が乏しい    ・思っていることをうまく伝えられない    ・作文が苦手    ・その場の空気が読めない    ・話始まったら止まらない    ・こだわりが強く、興味のあることをし続ける    ・小さい時に変わった子と言われたことがある    ・集中すると周りが見えなくなる    ・感情のコントロールが苦手で、パニックになりやすい    ・音や光の刺激に過敏    ・視覚的な認識に優れている    ・記憶能力が高く、目で見たものの記憶に優れている    ・決まりごとやルールを柔軟に考えることができない    ・融通がきかない       等々です。 * そして皆さんが生き辛さを抱えています。   なので、本人と家族へ発達障害との上手なつきあい方のアドバイスが重要となります。   前述のBさんには、『奥さんの言動でBさんが??と思ったことは、生活の中でひとつ   ひとつ解説してあげて下さい』『この場面では何を言うべきなのか、何を言うと相手は   ホッとするのかを教えてあげて下さい』と申し出ました。只今訓練真っ最中です。   今月の日曜外来では随分と落ち着きを取り戻し、子供に手を上げることも無くなった   ようです。Bさんのパチンコ通いは初診以来止まっています。                   次回のメルアドは、ASD職場編をお届けします。