━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ □■学会報告■□ 第10回 日本うつ病学会総会 「多様化するうつ病の今とこれから」 (後編) 2013/7/19・20 in福岡県北九州市 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 7月に開催された日本うつ病学会で私が聴講した講演内容を申送りさせていただきます。  <表記→ ○=抄録集からの抜粋 ・=藤井メモ> *シンポジウム 「教師のストレス(症例から)」    若久病院 野見山 晃 病院長 ○教師のストレスについて、公立学校共済組合九州中央病院の精神科診察室での経験を基 に述べる。教師の休職者で精神疾患によるものが6割を越えることとなった。うつ病の占 める割合が圧倒的に多い。ただし診断名は、神経症圏内、適応障害、発達障害、統合失調 症と思われる者についても、うつ病とされている場合があり、多彩な“うつ病”が現出し て現場は混乱していることを申し添えておく。 ○初診は上司・同僚や家族に勧められてが最も多く、教師の病院だからというのは少なか った。教師は精神科受診を同僚や生徒・保護者に見られることを気にするからである。 見知った教師に会いかねない病院には行きづらいということらしい。あるいは精神科受診 の既往のある教師は、校長にはなれないという風聞を語った教師もいた。 ○また年休をとることや勤務時間中に職場を離れることが苦痛であったようだ。従って、 人目の少ない夕方以降に受診することを希望する教師が大多数であった。そういう訳で サービスも兼ねて、夕方を教師の時間としていた。それにしても教師は体面や人の目を意 識せざるを得ない人達である。 ○30年前に比べて教師の仕事量は3倍となり、パソコンの導入は教師を楽にせず、土曜 日に授業が出来なくなったことも仕事を困難にした。先生の社会的地位の低下は著しく、 「先生が言うのだから」と矛を収める保護者は少ない。それでも聖職という自己犠牲を要 求される。 ○世間や校内で事件が起きる度に会議と研修会と書類が増え、皮肉なことにうつ病者が増 えて教師のメンタルヘルスが叫ばれれば、メンタルヘルスの研修会・講演会が増えて、ま すます忙しくなる。それで子供の傍らにゆっくり居られなくなり、故にまた事件が起こり 対応に追われる。悪循環である。 ○マスコミは一方的に教師の不始末を取り上げ、保護者は教師に我が子の躾を期待するか と思えば、塾で頑張っているのだから授業中に漫画を読ませて欲しいと特別扱いを要求す る。生徒が怪我をすれば担任・養護教諭を責め苛む。保護者会は教師の吊るし上げの場所 となり、成績が上がらぬ理由が教師に転嫁されていく。 ○過去未経験の発達障害児や学校崩壊の問題等は、先輩教師の助言が役に立たない。日教 組の力の低下に伴い教師は後ろ盾を失い管理職の顔色を窺い、相互評価方式も相俟って職 員室は殺伐となり、孤立感は深まっている。 ○失敗に脅え、保護者に脅え、世間の目に脅え、明日に脅える。すっかり余裕をなくした 結果として子供達に脅えることとなる。 ・教師は孤立している。 ・教師のストレス度は総合病院の現場と同等と言われている。 ・中高年の教師のうつは、自尊心が傷ついて発症し、思い悩む重症のうつが多い。 ・若い教師のうつは、適応障害が多い。 *シンポジウム 「教職員メンタルヘルス予防システム」の実際と課題                          川口市教育委員会 土井一博先生 ○教職員メンタルヘルス予防システム構築のキーワード キャッチフレーズ @人と繋がり、Aやって見せ、B数字(成果)をあげる。 ○教職員メンタルヘルス予防の効果 休職寸前で連絡を受け、危機介入をした結果、休職を未然に予防できた教員数の推移。 平成22年37人→平成23年42人→平成24年40人。 教員は休職者が発生すると代わりに非常勤講師を雇用する。その費用が1人800万円必要 とされている。平成24年を例にとると、800万円×40名=3.2億円の人件費を抑制。 ・発病したら自分で治して復帰して下さい、というのが現状。 ・文部科学省の発表では、復帰した人の50%が再休職する。 <市内小中高等学校の巡回カウンセリングから見えてくるもの> ・同僚とのコミュニケーションがとれている教員は休職しない。 ・繁忙感+孤独感+個人的事情、が発病となる。 ・学校現場は、メンタル予防に関してあまりにも無防備である。 ・休職者は“指導”では予防できない。 ・先生自体に発達障害が多くなっている。 <若手教員の特徴>@志望動機が曖昧→職業不適合となる。仕事で自己否定されると切れ たり、引きこもったりする。A社会人として常識が欠如している。B親離れできていな い。C正解のない事例に弱いD前任校のやり方から切りかえられない。 <教員を目指す学生に教えていること> ・自分が大切にされた体験をさせる。 ・グループ体験の中で、思い通りにいかない体験をさせる。 ・頑張り方の工夫をさせる。ひとりで頑張らないで、上手に甘えることを教える。 *シンポジウム  「現代型うつ病をめぐる混乱を斬る!−うつ病のトータルマネジメントのために」                   東京女子医科大学病院精神神経科 坂元 薫 教授 ○近年、うつ病の多様化がしきりと論じられるようになった。そうした中で「新型うつ病」 が話題に上ることも多いが「新型うつ病」という精神医学用語はないことを確認しておき たい。現代の若いひとたちがしばしば呈するうつ状態をマスメディアがこのように命名し たマスコミ造語である。 ○「現代型うつ病」をめぐる論議が、かつて精神科医の中で繰り広げられてあまり実りの なかった「内因性」のうつ病か「神経症性」のうつ病か、あるいは、うつ病か適応障害か という概念論争に終始すべき時ではない。 ○昨今、「新型うつ病」を取り上げているマスコミの論調は、そうしたレベルの二分法では なく、「病気か怠けか」の二分法である。極端に言えば、うつ病なら治療の対象で優しく接 するべきであり、怠けであればその逆の対応を想定しているのではないか。そうしたマス メディアの取り上げ方は、「新型うつ病」とされた若者たちに「本当の病気でもないのに、 根性が足りなく、すぐに白旗を挙げる脆弱な人々である」という蔑視にも似た感情を抱く ことを促すような気がしてならない。現代日本社会の魔女狩りと言ったら言い過ぎであろ うか。 ○あえて診断学的gray zoneの存在を認め、無理矢理にある診断カテゴリーに当てはめよ うと腐心するのではなく、「現代型うつ病」の彼らに臨床家や家族、周囲はどのように対応 すべきかを真剣に考えるべきであろう。本講演では、実際の症例を通して、彼らへの治療 的対応のありかたを具体的に検証していきたい。 ・ありとあらゆる治療をしても寛解しないうつ病患者は33%いる。 ・重症のうつ病は、いきなり重症になったのではない。少なくとも1ケ月や2ケ月前から症 状が出ていたはずである。だからその時期(1ケ月や2ケ月前)に、業務軽減措置を早めにす る必要がある。 ・時には、「大丈夫、ここが踏ん張り時!」と適度に背中を押して励ますことが大切。 ・行動活性化の認知療法は有効である。行動活性化療法とは、自分のできることをやって もらう、やらせること。 ・陰性感情を周囲に思わせる人は、「ありがとう」を言えない。 *シンポジウム 「女性とうつ」               東京女子医科大学付属女性生涯健康センター 加茂登志子所長 ○四大疾病から五大疾病へ。今年、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病の四大疾病に、 新たに精神疾患が加わった。5番目に登場した精神疾患の患者数は実は四大疾病のいずれ よりも多い。また厚労省の患者調査によれば、気分障害の患者のうち女性の割合はおよそ 6割に及ぶ。年齢別にはいずれの年齢層でも女性患者数が男性を上回っている。この数字 は、うつ病治療に取り組むものにとって、性差を改めて意識し取り組む姿勢を整える必要 性を訴える。四大疾病の罹患率は全て女性より男性が高かったことを考えると、その意味 はなおさら大きい。五大疾病元年は地域医療における女性医療元年でもある。 ○女性のうつ病として代表されるものに、月経前不快気分障害、産後うつ病、閉経周辺期 うつ病がある。これらのうつ病には、それぞれに女性の月経周期に関連したより一般的な 心身の不調状態が対応している。すなわち、月経前症候群、マタニティブルーズ、更年期 障害である。これらの状態をここではいったん「弱り目」状態と総称しよう。「弱り目」状 態は頻度が高く、疫学調査をすると50~85%近くの女性が何らかの症状を訴える。「弱り目」 状態には、睡眠・食欲の症状、自律神経症状・身体症状、気分の症状、認知の変化の4つ の基本的症状群がある。 ○上述した女性のうつ病は、弱り目状態の上に生じる「祟り目」状態ともいえよう。 「祟り目」状態はより頻度が少なく重症で、気分失調が目立ち生活への支障が大きいため 多くの患者は最終的に精神科で治療を受ける。「祟り目」状態は、「弱り目」に大きなスト レスや複数のストレスが重なる時に起きやすく、とりわけ家庭内での悩みやパートナーと の関係が発症と症状持続に大きく影響しやすい。女性のうつ病治療には、性と年齢への配 慮が重要である。 ・保育園児の母親への調査で、18%がDV被害者だった。DVを受けている母親は全ての 検査で不調が確認され、うつ病が最多。 ・女性のうつには、甲状腺機能障害の検査が必要。 ・40〜55歳の女性の場合、抑うつ状態があってもホルモンのチェックが必要。 ・婦人科治療のホルモン療法は、うつ状態や気分失調を生じやすい。