━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━             ◇◆ 自信を育てるために ◆◇ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *新年度を迎え、事業所では入社式や新入社員研修の準備が大詰めを迎えています。  私も3月〜4月は、新入社員を対象としたセルフケア研修で予定が埋まります。  社会人となって第一歩のこの時期に、元気に働くための基本を身に付けることが、これ  から定年までの約40年の基礎を成すものだと思い重要視しています。  題して「健康管理の基本」。食べること眠ることの意味を入れた内容は、人として生活  していく為の基礎知識です。 *希望を持って入社して数年経った若い世代とカウンセリングをする時、いつも聞く言葉  があります。それは「自信がない」。  仕事をしていく中で自信がないと感じる方が圧倒的に多いのは当然なのですが、若者達  が言う「自信がない」とはもっと根が深いように感じます。自分はこのまま存在してい  いのか、という人としての根幹を問う自己肯定感の低さが散見されます。 *自信がないと言ってきた若者達に共通することは、人と話すことが苦手で、親や周囲の  人達との会話が少なかった生育歴があります。  仕事をするとは、人との関係の中で自分を表現することなので、人と話すトレーニング  が少なかった若者は社会に出た途端に戸惑い萎縮してしまいます。  自分が考えていることを自分の言葉で表現することの大切さを、この時期には徹底して   教えトレーニングを開始するしかありません。 *早稲田大学名誉教授の加藤諦三先生の教示から。 ・極端に言えば言葉は何でもいい。誰が言うかが問題なのである。  人は信じている人の言うことで励まされ、自信を持つ。 ・何よりも大切なのは、まず子供の気持ちを汲み取ることである。子供は辛くても自分の  気持ちを理解されると安心する。そこで気持ちが楽になり、発奮する。 ・気持ちを汲み取るためには、当たり前のことであるが子供に関心がなければならない。 ・子供は母親の評価で自信がつくのではなく、母親の感情で自信がつく。  子供に自信を与えるのは人間関係。自分が心を許す人がありのままの自分を受け入れて  くれることで自信がつく。 ・親から積極的関心をもたれないで、優れた子供とか良い子となっても、それは自信には  つながらない。良い子になることで関心をもたれるのは、相手の道具になることでしか  ない。その子は人格を認められていない。 ・人は、周囲の人から本当に関心をもたれて初めて自分がこの世界とつながっているのだ  という感覚を身につけることができる。 ・将来伸びる子は、絶対評価で誉めてもらえた子である。相対評価でおだてられた子は、  先にいくと伸びないことが多い。絶対評価で誉めると子供はだんだんと自信を持ってく  る。ただ絶対評価が大切なのは、共同体的人間関係においてである。  社会に出て機能集団で働き始めたときは、相対的評価が問題になる。  社会に出てから相対的評価を乗り越え自信を持って生きる土台を作るのが、小さい頃の  共同体的人間関係での絶対評価である。  最近の新入社員のように認めてもらえなかったとき「僕は頑張った」と不満になるのは、  共同体と機能集団をはき違えている。 *つまり、親からの絶対評価を受けられなかった若者が、相対評価を求める社会に出てか  ら、本来親がすべきだった本人の存在を他人に認めて誉め続けてもらいたいというのは  はき違えている、ということです。  最近多い診断書“適応障害”の本質はこれだと実感します。 *今、産業保健の現場では「鍛え育てる」という視点での対応が求められています。  生育過程で絶対評価を受けてこなかった若者たちへ「大丈夫!そのままの君でいいんだ  よ」「あなたのことを見ているよ」というメッセージを伝え続けていく必要があります。  そして仕事上失敗して叱られたとしても、存在を否定されたのではないことを理解させ、  「失敗しても大丈夫!また頑張ってみよう」という思いが持てるような勇気づけの言葉  がけをしていきたいと思います。それでいいんだよ、とそっと背中を押していくカウン  セリングを続けていきたいと思います。